富士山はどこから見ると一番高いか(3)


                                      
                                   Kragen

目黒富士

(目黒 行人坂からの富士 『日本地理大系 富士山』所収)

 富士山は、見る場所によって高く見えたり低く見えたりするようだ。しかし、シル
エットを比較しても、場所による富士山の形の変化はほとんどない。
      *
(承前)
 武田久吉は、富士山の形について詳しく調べ、次のように述べている。

    同一方向でも、観者の位置と富嶽の距離が増すにつれて形がよく、又同一地
   点でも、観者の位置の高低によって、形が異なり、高ければ高い程、富士の姿
   は高く見える。
                           武田久吉「富嶽八面相」
           (『日本地理大系 別巻 富士山』改造社、1931所収)より
 同書の挿画をインターネット上に転載しておく。
image001.jpg

(画:今村巳之介、『日本地理大系 別巻 富士山』改造社、1931、p.16より)
 しかし、この図は、シルエットの変化が強調されすぎている。次のように書き直す
のがわかりやすいだろうと思われる。
image002.jpg

      *
 これまでみてきたように、富士山のシルエットは、見る場所によってほとんど変化
しなかった。
 これは、次のような実験をしてみれば理解できそうだ。
image004.GIF

(平面型富士山模型)
 富士山の形になるように、三角形または台形に切った紙を用意して、目の前で動か
して真正面のさまざまな角度から眺めてみる。目と山形の距離を変えても、当然なが
ら山の形の見え方はほとんど変化しないのがわかるだろう。また、山が最も形が良く
見えるのは、紙を真正面から見たときである。紙を上にずらしていくと、見る位置の
標高が下がっていくことになる。一方、紙を下にずらしていくと、見る位置の標高が
高くなることに相当する。どちらにずらしても、三角形は小さく見えるようである。
しかし、縦に縮んだり伸びたりするのではなく、単に全体が小さくなったり大きくな
ったりするだけである。
image006.GIF

(どこから見ても富士山の形はほとんど変化しない。)
 実際には、いろいろな条件によって、富士山の見え方は変化する。しかし、富
士山よりも標高が高い場所はないし、標高0mよりも低い場所はないので、地上から見
る限り、あまり条件が極端な場所はない。富士山全体が見える範囲の場所であれば、
シルエットの変化はほとんどないと言いきってもいいのではないか?
      *
 ところが、富士山の裾野は左右だけでなく、手前に向かっても伸びてきている。上
に引用した図版の示す通り、手前に向かってくる裾野が富士山を見たときの印象の重
要なポイントになっている。
image008.GIF

(立体型富士山模型)
 同じような実験を、山の形の立体にしたモデルで確かめれば、一目瞭然、富士山は、
低い位置から見るほど縦に縮み、高い位置から見るほど縦に伸びて大きく見えること
がわかる。したがって、視点が高いほど、富士山は大きく見える。富士山の裾野は大
きいから、この効果は絶大である。
 ただし、真上からのぞきこんでも、裾野の面積が大きく見えるだけで少しも「高く」
は見えないように、富士山の標高よりも高い位置から見下ろしても、「大きく」はな
っても、あまり「高く」はならない。富士山の標高よりもやや低いくらいの位置から
見るのが、最も「高く」見えるのだ。
image010.GIF

標高より高い場所から見下ろした場合。富士山は「大きい」が「高く」ない。
      *
 富士山が一番高く見える場所については、次のようにまとめられる。

 視点の高さについては、
  高ければ高い程富士山は大きい。一方、裾野と山頂の中間くらいの高さが一番富
士山の形が良い。おそらく、富士山よりもやや低く、裾野と山頂の中間よりも高いと
ころに、ベストポイントがあるだろう。

 視点の距離については、
  近ければ近いほど富士山は大きいが、遠ければ遠いほど富士山の形が良い。地上
の場所で裾野がすべて見える範囲であれば、遠いほうが富士山は美しく見える。
(つづく)
Kragen/~