富士山はどこから見ると一番高いか(2)


                                      
                                   Kragen

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富士宮市 阿幸地から見上げる 夕映えの富士

 富士山は、見る場所によって高く見えたり低く見えたりすることがあるらしい。一
方、地図から描いた富士山の断面図は、目で見た富士山よりも平べったい印象である。
その原因は何なのだろうか。
      *
(承前)
 伊藤幸司さんは、自著『富士山・地図を手に』の中で、富士山の印象が見る場所に
よって違うことに関して、疑問点を述べている。
 そのうえで、富士山の印象の違いはその姿に表れるだろうと考えて、地図から作り
あげた富士山の断面図をトレーシングペーパーに書き写し、様々な場所から撮影され
た富士山の写真に重ね合わせて比較する、という作業をしている。しかし、その結果、
どの富士山の写真もおおかた断面図の形に一致した、というのである。
 残念ながら、富士山の断面図と比較しても、見る場所による富士山の見え方の違い
は説明できないばかりか、富士山のシルエットは平べったい断面図とほぼ同じ形をし
ているのである。
 問題の、地図上の富士山よりも、目で見る富士山が高く聳えて見える原因については、

    富士山の表情は、雪のつきぐあいや、放射谷の陰影によって多彩に変化する
   うえに、それが樹林帯の黒々とした色あいとのバランスで、さらに印象を変え
   ていきます。
         伊藤幸司『富士山・地図を手に』(東京新聞出版局、1980)より

 として、この項を終わっている。
 地図から作り上げた富士山の鈍重なシルエットは、実際の富士山に似つかわしくな
い。しかし、その印象の違いが地形の表情によるものだ、と完全に納得してまうのは、
少々すっきりしない気がする。
      *
 実際の富士山の形は、見る場所によって「多少は」変化している筈である。
 写真よりも詳細な比較検討ができるCGでは、どのようになるだろうか。カシミール
を使って、富士山の形についてもう少し詳しく調べてみよう。
 勇躍、カシミールを使って、実際の富士山を実在のあちこちの場所から描くと……。
確かに微妙な違いはあるが、到底富士山の印象の違いを説明できるほどの違いはない。
なんと、どこから見てもほぼ同じ形になる。伊藤幸司さんのおっしゃる通りだったの
である。

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愛鷹山(越前岳)頂上から見た富士(CG描画:カシミール)


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愛鷹山の富士山側の麓から見た富士(CG描画:カシミール)


 CGで地図から描いた富士山も、やはり、どこから見ても同じ形になる。また、写
真集で見る富士山も、これまた伊藤幸司さんの実験の通り、どれもほとんど変わらな
い形である。「富士山のシルエット」を見る限り、見る場所による違いはほとんどな
いように、私には感じられる。
 おそらく、伊藤さんの言うように、地形の表情は重要なのであろう。しかし、何か
富士山の印象の違いについて、もう少しきちんとした説明ができないのだろうか。
      *
 さて、調べていくうちに、科学的に富士山の見え方の違いを詳しく調べた最初の人
物は、武田久吉かも知れないということがわかってきた。
 昭和六年(1931年)に刊行された改造社版「日本地理大系」の別巻5は「富士山」
と題された大著で、グラビア全270ページのうちの1/3以上、91ページが富士山の山頂
の形の写真をただ並べただけという構成で、まさに圧巻である。
 この写真を撮影したのが武田久吉と小林義秀で、これに寄せて、「富嶽八面相」と
いう文章を同書に武田久吉が寄せており、本書の富士山写真を「無きに勝る」ものと
謙っているが、もちろんこれは「画期的作業」であることを誇っていることの裏返し
であろう。
 この中で、富士山のシルエットについても語られている。残念がらその考察は今一
つ突っ込み不足なのであるが、本質は既に語られているようだ。
(つづく)
Kragen/~
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富士山近傍の地形(数値地図50mメッシュにより作成)